「上肢後遺障害」を交通事故で負った場合の後遺障害認定の基本
目次
平和な暮らしの中にでも、突如として交通事故は起きるものです。軽傷であればまだしも、後遺症を伴う重傷を負った場合には、どのような補償を受けられるのでしょう。
ここでは交通事故で「上肢(腕)の後遺障害」を負った場合に、どのような補償を受けられるのか見ていきます。慰謝料や逸失利益も受け取れる可能性があるため、しっかりと確認をしておきましょう。
なお、ここでは手指の障害に関しては触れておりませんので注意して下さい。
■上肢とは?
上肢とは「肩関節」、「肘関節」、「手関節(手首)」の上肢3大関節と、手指を含めた部位のことを指します。一般的には「腕」と「手」として認識されている部分です。
上肢の働きには、例えばものを握ったり、ものを掴んだりなどがあります。またコミュニケーション手段としてジェスチャーに用いられるなど、生活をしていく上で必要不可欠な部位と言えるしょう。したがって、上肢を失うことは生活に多大な障害を与えると予想されます。
上肢に損傷を負う原因には、例えば病気や事故などがあります。理由は様々ありますが、もし上肢の損傷によって後遺症を負ったら、私生活や仕事において肉体的・精神的に苦痛を感じることになるでしょう。
■上肢の3つの後遺障害の種類
交通事故によって上肢に何らかの後遺症を負った場合、それを「上肢後遺障害」と言います。上肢の後遺障害には「上肢欠損障害」と「上肢機能障害」、「上肢変形障害」の3つがあります。それぞれの障害の種類について、よく確認をしてください。
(1)上肢欠損障害
上肢欠損障害とは交通事故により、上肢(腕)の一部を失う障害を指します。失った部位の位置と、片腕もしくは両腕なのかによって認められる等級が変わります。
失った部位の位置を具体的に説明すると、「肘関節以上か」「手関節以上か」で決まります。ひじ関節以上で失った場合の方が手関節よりも、重度の後遺障害認定が適用されることになっています。
(2)上肢機能障害
上肢機能障害とは交通事故によって上肢の機能を果たせなくなった障害を指します。具体的には程度によって、下記の4つが定められています。
- 上肢の用を廃したもの
- 関節の用を廃したもの
- 関節の機能に著しい障害を残すもの
- 関節の機能に障害を残すもの
それぞれを説明すると「上肢の用を廃したもの」とは、上肢3大関節の全てが硬直した状態に加えて、手指の機能障害も含む状態を指します。また「関節の用を廃したもの」は、上肢3大関節の全てが硬直した状態を指します。
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、関節の可動域に著しい制限(健側よりも2分の1以下)を受けるものを言います。「関節の機能に障害を残すもの」とは、可動域に制限を受けるもの(健側よりも4分の3以下)を指します。
これらの障害の程度に加えて、片腕なのか、それとも両腕なのかで認められる等級が決まります。
(3)上肢変形障害
上肢変形障害とは骨がくっつかない(偽関節)、もしくは歪んで固まってしまう(変形)症状を言います。偽関節の場合は骨折した部位の回復が止まってしまいます。また、変形の場合は正常状態以上に曲がって固まってしまいます。これらの症状が見られる場合に、上肢変形障害として後遺障害が認められます。
■上肢の後遺障害認定
上肢の後遺障害は、その障害の種類ごとに等級が定められています。後遺障害認定が適用されると、その等級に従って加害者(保険会社)から慰謝料や逸失利益を受け取ることが可能です。等級は1級から14級まであり、1級に近いほど重度の後遺障害であるとされています。そのため、正しく後遺障害認定を受けることが肝心です。
(1)上肢欠損障害
上肢欠損障害では1級から5級までの4段階の後遺障害が認められています。その等級は欠損部位と片腕か両腕かで決まります。詳しくは次の通りです。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級1級3号 | 両上肢をひじ関節以上で失う |
後遺障害等級2級3号 | 両上肢を手関節以上で失う |
後遺障害等級4級4号 | 1上肢をひじ関節以上で失う |
後遺障害等級5級4号 | 1上肢を手関節以上で失う |
(2)上肢機能障害
上肢機能障害には1級から12級までの6段階の後遺障害が認められます。障害の程度と後遺症を負った腕の本数によって、次のように決まっています。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級1級4号 | 両上肢の用を全廃する |
後遺障害等級5級6号 | 1上肢の用を全廃する |
後遺障害等級6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃する |
後遺障害等級8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃する |
後遺障害等級10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残す |
後遺障害等級12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残す |
(3)上肢変形障害
上肢変形障害は7級から12級までの3段階で後遺障害が定められています。障害の程度によって等級が決まっており、詳しくは次の通りになっています。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残す |
後遺障害等級8級8号 | 1上肢に偽関節を残す |
後遺障害等級12級8号 | 長管骨に変形を残す |
※長管骨とは長細い管上の骨全般を指し長骨とも言いますが、上記の場合は二の腕の上腕骨を指します。
■上肢の後遺障害を立証するポイント
上肢の後遺障害認定は外傷を伴う後遺症であるため立証しやすい傾向にあります。しかし、交通事故との因果関係等を証明できないと、認められなかったり、軽い認定を受けたりするケースもあるようです。そのため、正しく認定を受けるための立証ポイントを押さえておきましょう。
(1)事故時に関節の骨折、腱の損傷が見られる
上肢の後遺障害を立証するためには、まず交通事故後に損傷が確認できる必要があります。具体的には関節、その付近の骨折や、腱、じん帯、神経等の損傷があります。
交通事故によってこれらの損傷が起きたことを証明する必要があります。したがって、レントゲンやMRI等で画像撮影をしておくことが大切です。これによって医学的に損傷を証明することが可能になります。
(2)機能障害の原因が特定できる
症状固定時に上肢の機能障害の原因を特定できる必要があります。例えば関節の強直や変形癒合等です。これらは専門のクリニックで検査をすることが可能です。そのため地域の総合病院、専門病院で診察、検査をしてもらい診断を受けるようにする必要があります。
■上肢の後遺障害による慰謝料相場
上肢の後遺障害認定が適用されれば、その等級に従って慰謝料や逸失利益を受け取ることが可能です。等級は障害の種類に問わず、一律に慰謝料相場が決められています。いくつかの慰謝料相場がありますが、ここでは一番高い弁護士基準を参考に見ていきます。(括弧内は比較のため自賠責保険基準の場合です)
後遺障害認定をされた等級 | 弁護士基準の後遺障害慰謝料 |
---|---|
後遺障害等級1級認定を受けた場合 | 2,800万円(自賠責:1100万円) |
後遺障害等級2級認定を受けた場合 | 2,370万円(自賠責:958万円) |
後遺障害等級4級認定を受けた場合 | 1,670万円(自賠責:712万円) |
後遺障害等級5級認定を受けた場合 | 1,400万円(自賠責:599万円) |
後遺障害等級6級認定を受けた場合 | 1,180万円(自賠責:498万円) |
後遺障害等級7級認定を受けた場合 | 1,000万円(自賠責:409万円) |
後遺障害等級8級認定を受けた場合 | 830万円(自賠責:324万円) |
後遺障害等級10級認定を受けた場合 | 550万円(自賠責:187万円) |
後遺障害等級12級認定を受けた場合 | 290万円(自賠責:93万円) |
※後遺障害慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の三つがあります。弁護士に依頼すると慰謝料の増額が見込めます。詳細はこちら:弁護士に依頼すれば示談額が増える訳(3種類の慰謝料支払い基準)
また、この慰謝料以外に逸失利益も受け取れる可能性があります。逸失利益とは交通事故によって受け取ることができなくなってしまった、将来の賃金・給料ことです。専業主婦であっても逸失利益が認められることがあります。そのため、障害の程度によって逸失利益を受け取れることもあるため、正しく請求をすることが大事です。
■上肢の後遺障害なら弁護士に相談しよう!
交通事故によって上肢の後遺障害を負ってしまった場合には、まず弁護士に相談をするのが良いでしょう。なぜなら、上肢の後遺障害は立証しやすいと言っても、いざ保険会社と話し合いになると加害者側の都合で話が進められてしまう可能性があるからです。
そこで弁護士に依頼をしておけば、こうした事態を防ぐことが可能になります。弁護士は後遺障害に対する正しい知識を持って、被害者の権利を主張してくれます。その結果、被害者一人で話し合いをするよりも、慰謝料額を増やすことができる可能性もあるのです。したがって、もし上肢後遺障害を負った場合には、まずは弁護士に相談するといいでしょう。
■まとめ
上肢の後遺障害認定について見てきましたがいかがだったでしょうか。上肢の後遺障害には「欠損障害」「機能障害」「変形障害」の3つが認められています。もし交通事故でこれらの後遺症を負ったら、加害者に正当に慰謝料、逸失利益を請求しましょう。また、被害者の方はその主張を守るために、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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