交通事故による口や歯の後遺障害認定の扱い・慰謝料まとめ
目次
交通事故は突然に起きるもので、いつ誰に襲いかかるか分かりません。日本ではこうした交通事故被害者の救済のために、後遺障害認定制度を整えています。
ここでは口の後遺障害を中心に解説をしていきます。もし交通事故で口や歯の後遺症を患ってしまったなら、まずはここで後遺障害の基本を確認してください。そして、正当な補償を受けるようにしましょう。
■口や歯の役割と機能障害
口は食べたり、話したり、息を吸ったりと様々な役割を担っている器官です。人は生命維持のために食物を取る必要があり、その入り口として口があります。また、呼吸をするための入り口としても口があります。したがって、口は生命維持の一環を担当していると言っても過言ではないでしょう。
また、人は社会的動物と言われるほど、コミュニケーションが大事な生物です。そして、このコミュニケーションの多くを「会話(言語)」に頼っています。もちろん、この言語は口を通して発せられるもので、人として生きるためには口は重要な役割を担っていると言えるでしょう。
このように、口は人間にとって日常生活を送る上で重要な器官と言えます。そのため、何らかの怪我や病気によって口が使えなくなると、患者さんは肉体的・精神的にも困難を要します。したがって、万が一、交通事故で口の機能障害を負ったならば、正当に補償を受けなければなりません。
■口・歯の後遺障害の種類
口の機能障害は大きく3つに分類することができます。それが「咀嚼・言語・嚥下障害」「味覚障害」「歯牙障害」です。これらの障害の種類を解説しておきます。
(1)咀嚼・言語・嚥下障害とは?
咀嚼とは食べ物を口の中に含み、かみ砕く機能のことを言います。交通事故の程度によっては固形物が噛めなくなり、流動食しか摂取できない事態になるケースもあります。
言語とは母音と子音を用いて 、意味のある音にする機能のことです。子音には「口唇音(ま行など)」「歯舌音(な行など)」「口蓋音(か行など)」「喉頭音(は行など)」の4つの種類があります。機能障害により、いずれかの音を発せなくなってしまいます。
嚥下とは、食べ物を飲み込み、胃まで運ぶ機能のことを言います。嚥下機能が失われると、正しく食物を摂取できなくなり、気管に食べ物が入る等の障害が起きます。
(2)味覚障害とは?
味覚とは、食べ物などの味を認識する機能のことです。交通事故で舌や顎に障害を負うことで、その機能が失われる場合(味覚脱失)や、味覚が鈍くなる(味覚減退)が起きます。
味覚には「甘味」、「塩味」、「酸味」、「苦味」の4つの種類があります。この味覚がどのくらい知覚できなくなるかで、障害認定が変わります。
(3)歯牙障害とは?
歯牙(しが)とは歯のことを指します。歯牙は食べ物を砕くために必要だったり、顎の形を維持したり、審美面で重要な役割を果たします。歯牙障害は、交通事故によって失った歯の本数によって認められます。なお、仮に事故後に差し歯が3本でも、実際に失った歯が2本であれば、歯牙障害は2本として判断されます。
■口・歯の後遺障害認定
後遺障害認定とは、特定の後遺症を患った人に対して、慰謝料や逸失利益を認める制度です。1級から14級まで定められており、1級に近いほど重度の後遺障害として認められます。そして、口の後遺障害は障害の種類ごとに等級が定められています。詳しくは下記の通りです。
(1)咀嚼・言語・嚥下障害
咀嚼・言語・嚥下障害は1級から10級の6段階に後遺障害等級が区分されています。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級1級2号 | 咀嚼と言語機能を廃した |
後遺障害等級3級2号 | 咀嚼または言語機能を廃した |
後遺障害等級4級2号 | 咀嚼と言語機能に著しい障害を残す |
後遺障害等級6級2号 | 咀嚼又は言語機能に著しい障害を残す |
後遺障害等級9級6号 | 咀嚼と言語機能に障害を残す |
後遺障害等級10級3号 | 咀嚼又は言語機能に障害を残す |
障害の種類と程度によって等級が決まります。 なお、 嚥下の場合はその程度により、3級、6級、10級のいずれかが認められます。
(2)味覚障害
味覚障害は12級と14級の2つが認められています。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級12級相当 | 味覚を脱失した |
後遺障害等級14級相当 | 味覚を減退した |
味覚脱失の場合は3種類以上の味覚を知覚できません。また、味覚減退の場合は1種類以上の味覚を知覚できない状態を指します。
(3)歯牙障害
歯牙障害は10級から14級の5つ等級に区分されています。
後遺障害認定等級 | 後遺障害認定の認定基準 |
---|---|
後遺障害等級10級4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えた |
後遺障害等級11級4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えた |
後遺障害等級12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えた |
後遺障害等級13級5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えた |
後遺障害等級14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えた |
歯科補綴(しかほてつ)とは、交通事故で失った歯の代わりに、人工歯で補うことを言います。その補った本数によって後遺障害等級が決まります。
■口・歯の後遺障害の立証ポイント
口の後遺障害認定を立証するためには、医学的な見地からの証明が必要になります。したがって、口や歯の専門病院でしっかりと検査をすることが肝心です。なお、それぞれの機能障害を立証するポイントをまとめておくので、確認してください。
(1)咀嚼障害
咀嚼障害を立証するには、「他覚的な所見が認められる」ことと、「そしゃく状況報告表の内容と整合性がある」ことが必須です。
まず、「他覚的な所見が認められる」とは、事故直後にレントゲンやMRI、CTなどで骨折や顎の変異が認められることです。したがって、外傷を負っていることが医学的に証明できる必要があります。
また、「そしゃく状況報告表の内容と整合性がある」ことも必要です。こちらは咀嚼の程度を調べるもので、「流動食のみ」「粥またはそれに準ずるもののみ」「一定以上の堅さは咀嚼できない」の3段階に分かれています。これを「ふるい分け法」や「吸光度法」「発光ガム法」などによって診断します。
これら2つを確認できることで、咀嚼障害を立証しやすくなります。
(2)言語障害
言語障害を立証する場合、「医師の聴覚判定」となることが一般的です。したがって、医師が「言語障害がある」と診断する必要があります。
聴覚判定では、「単音節」、「単語」、「文章」、「会話」の4つのレベルの構音能力を検査します。これによってどの程度、言語障害が起きているかを診断していきます。
なお、一般的な病院ではなく、専門医のいる総合病院・大学病院等で診断する方がいいでしょう。
(3)味覚障害
味覚障害は「濾紙ディスク法」によって味覚の脱失、または減退を検査していきます。濾紙ディスク法とは4種類の味覚を検査できる試験で、最高濃度液の味を知覚していきます。その結果で、味覚障害を立証することができます。
なお、味覚障害を立証する場合、事故後半年程度の期間を空けるのが一般的です。なぜなら、味覚は期間の経過とともに回復しやすいからです。したがって、長期期間を空けても味覚が回復しない場合に味覚障害を立証できます。
(4)歯牙障害
歯牙障害は、歯冠部分が4分の3以上欠損している場合に認定対象となります。したがって、専門歯科にて欠損割合を診察してもらう必要があります。
なお、歯牙障害の場合は、専用の後遺障害診断書を使います。「歯科用」を使うようにして、後遺障害認定を受けましょう。
■口・歯の障害による慰謝料の相場
交通事故で口や歯に後遺症を負ったら、その後遺障害等級によって慰謝料を受取ることができます。慰謝料の相場はいくつかの基準がありますが、今回は一番高い弁護士基準を参考にします。なお、口の後遺障害の種類を問わず、同じ等級を受けたら、同程度の慰謝料請求ができます(※括弧内は弁護士を使わない自賠責保険基準の場合)。
後遺障害認定をされた等級 | 弁護士基準の後遺障害慰謝料 |
---|---|
後遺障害等級1級認定を受けた場合 | 2,800万円(自賠責:1,100万円) |
後遺障害等級3級認定を受けた場合 | 1,990万円(自賠責:829万円) |
後遺障害等級4級認定を受けた場合 | 1,670万円(自賠責:712万円) |
後遺障害等級6級認定を受けた場合 | 1,180万円(自賠責:498万円) |
後遺障害等級9級認定を受けた場合 | 690万円(自賠責:245万円) |
後遺障害等級10級認定を受けた場合 | 550万円(自賠責:187万円) |
後遺障害等級11級認定を受けた場合 | 420万円(自賠責:135万円) |
後遺障害等級12級認定を受けた場合 | 290万円(自賠責:93万円) |
後遺障害等級13級認定を受けた場合 | 180万円(自賠責:57万円) |
後遺障害等級14級認定を受けた場合 | 110万円(自賠責:32万円) |
※後遺障害慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の三つがあります。弁護士に依頼すると慰謝料の増額が見込めます。詳細はこちら:弁護士に依頼すれば示談額が増える訳(3種類の慰謝料支払い基準)
この慰謝料の他に、失われた労働力分として「逸失利益」を受け取ることができます。逸失利益とは本来であれば将来受け取ることができるはずだった給料・賃金のことです。交通事故によって受け取ることができなくなったため、加害者から受け取ることができます。
■口・歯の後遺障害なら弁護士に相談しよう!
口・歯の後遺障害は一見すると私生活、仕事への影響が少なく見られがちです。そのため、生命保険会社が後遺障害認定を認めないケースは多いです。
しかし、被害者の方は目に見えない精神的苦痛を負っています。したがって、加害者に対して慰謝料・逸失利益を請求する必要があります。
そこで口の後遺障害を負ったなら、弁護士に依頼をしましょう。仮に話をすることが困難であっても、弁護士に依頼すれば、代理人として被害者の権利を主張することができます。そのため、泣き寝入りをせずに、まずは交通事故に強い弁護士に相談をするようにしてください。
■まとめ:口・歯の後遺障害認定は弁護士が力になります
口・歯の後遺障害について見てきましたがいかがでしょうか。口の後遺障害は大きく3つの種類に分類することができます。それぞれの障害に等級が決められているため、もし交通事故で口に異変を感じたり歯を欠損したりする場合には、医師の診断を受けるようにしてください。なお、口・歯の後遺障害は加害者側が認めにくい障害です。そんな時には弁護士が力になりますので、一度相談をしておくといいでしょう。
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参考:【交通事故】弁護士に示談を依頼するメリット+弁護士特約とは?
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