損害額の算定

治療が終わり、後遺症の認定結果が出ると損害額を算定することが可能となります。損害には、以下のとおり色々な種類項目があります。

診療費・治療費等 付添看護費
入院雑費等 通院交通費等
通勤・通学付添費 装具・器具等の購入費
自宅・自動車等の改造費 葬儀費用等
損害賠償手続費用 弁護士報酬・費用
遅延損害金 休業損害
後遺障害に基づく逸失利益 死亡による逸失利益
死亡に基づく慰謝料 入通院慰謝料
後遺障害に基づく慰謝料

診療費・治療費等

診療費・治療費・入院費用等は,最も代表的な損害です。重い後遺症が残った場合、症状固定後の将来の診療費等が積極損害として認められる場合もあります。

付添看護費

入院や通院をする際、傷害の程度によっては,誰かに付添をしてもらわなければならないということもあるでしょう。この場合の付添看護費は,損害として認められています。この付添看護費は,看護をした人自身の損害ではなく,看護を受けた被害者自身の損害となります。重い後遺障害が残った場合、症状固定後の将来の付添看護費が損害として認められる場合もあります。

入院雑費等

入院をすると,いろいろな雑費がかかります。この入院雑費も,損害として認められることがあります。裁判基準では,入院1日につき1500円が基本とされていますが,それを超える雑費についても認められる場合はあります。また,重い後遺障害が残った場合、症状固定後の将来の雑費についても損害として認められる場合があります。

通院交通費等

通院のための交通費も損害として認められています。この通院交通費は,基本的には,公共交通機関の利用金額ですが,例外的にタクシー利用の交通費が認められる場合もあります。通院先が遠方などの特別な事情があれば,宿泊費等も認められる場合があります。通院のために付添が必要であるという場合には,前記付添看護費のほかに,付添人の通院交通費も損害として認められます。この場合も,やはり付添人の交通費は被害者自身の損害として扱われています。また,重い後遺障害が残った場合、症状固定後の将来の通院交通費が損害として認められるという場合もあります。

通勤・通学付添費

入院や通院における付添看護とは別に,傷害の程度によっては,通勤や通学に誰かが付き添わなければならないという場合、通勤・通学のための付添費が損害として認められるケースもあります。

装具・器具等の購入費

交通事故によって傷害・後遺障害を負った場合,各種の装具や器具を付けることを余儀なくされるということがあります。この装具・器具の購入費も損害として認められています。たとえば,代表的なものは,義歯・義眼・義手・義足・人工カツラ等の装具や,車いすや松葉杖,メガネ・コンタクトレンズ,歩行補助器,頸椎装具など,また,介護用ベッド・折り畳み式スロープ・人工呼吸器などの介護用品があります。重い後遺障害が残った場合、これらの将来の買換え費用が損害として認められる場合もあります。

自宅・自動車等の改造費

後遺障害1級や2級の場合、自宅や自動車などを後遺障害者用に改造しなければならないという場合、自宅や自動車などの改造費が損害として認められることがあります。もっとも,自宅や自動車を改造して利便性を高めることは,被害者の方だけでなく,その家族の方にとっても利益があるということから,かかった費用のうち一定限度で減額されることがあります。

葬儀費用等

死亡事故の場合には,葬儀費用が発生しますが、実務上は亡くなった方の損害として認められます。ただし、無制限ではなく、裁判基準では,原則として150万円とされています。

損害賠償手続費用

交通事故による損害賠償請求をするために,各種の書類取寄せのための費用、たとえば,診断書の作成手数料,医療記録の照会手数料,保険金請求のための手数料,医師による鑑定書の作成手数料などの損害賠償請求手続に関連する費用は,損害として認められる場合があります。

弁護士報酬・費用

交通事故による損害賠償請求は,非常に専門的な内容を含んでおり、弁護士に解決を依頼することが多く見られますが、この弁護士費用も損害として認められています。通常、弁護士費用相当損害金として認められるのは,請求として認められた金額の1割程度です。この弁護士費用は、示談の場合は通常認められません。現実に、遅延損害金を取るには、訴訟を提起し、判決を得る必要があります。

遅延損害金

交通事故による損害賠償請求権は,法的にいえば,不法行為に基づく損害賠償請求権で、不法行為の日から,年5パーセントの割合による遅延損害金が付されると解されていますので、この遅延損害金も,損害として認められます。但し、示談の場合は通常認められていません。現実に、遅延損害金を取るには、訴訟を提起し、判決を得る必要があります。

休業損害

交通事故に遭い受傷したことで、休業を余儀なくされその間の収入を得られなかった場合、得られたはずの休業中の収入や利益は休業損害として賠償請求が可能です。

後遺障害が残った場合には,後遺障害の症状固定時までの休業については休業損害の問題となり,症状固定時以降における後遺症による減収等については,後記の逸失利益の問題となります。

死亡事故の場合には,交通事故から死亡に至るまでの間に休業期間があれば休業損害を請求することが可能ですが,即死事案のような場合には,休業損害は発生しないということになります(ただし,逸失利益の請求は可能です。)。

後遺障害に基づく逸失利益

後遺障害(後遺症)が生じた場合、そのためそれまで行っていた仕事が今までどおりにはできなくなってしまうことがあり得ます。そのような場合,後遺障害がなければ得られたであろう収入等の利益が「逸失利益」と呼ばれ、損害として請求できます。尚、後遺障害のない場合には、傷害が完治して交通事故以前の状態へと復帰し,それ以降の将来の利益が失われることがないため、逸失利益は請求できません。

《逸失利益の算定式》

後遺障害逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

具体例 《大学卒業後銀行に就職して4年目の26歳男子で後遺症等級第9級のケース》

基礎収入

 640万5900円(事故前年収320万円だとすると、高い方の平成25年大卒男子全年齢平均賃金の640万5900円を採用)

労働能力喪失率

 35%

26歳から67歳までの41年間に対応するライプニッツ係数

 17.2944

【計算式】

  640万5900円×0.35×17.2944=3877万5168円

「労働能力喪失率」とは、労働能力喪失の程度・割合のことをといい、後遺障害等級に応じて定められた自賠責保険支払基準の労働能力喪失率表を基本として算定されます。

障害等級 労働能力喪失率
第1級 100/100
第2級 100/100
第3級 100/100
第4級 92/100
第5級 79/100
第6級 67/100
第7級 56/100
第8級 45/100
第9級 35/100
第10級 27/100
第11級 20/100
第12級 14/100
第13級 9/100
第14級 5/100

「基礎収入」は、基本的に,交通事故による受傷前の被害者の現実の収入を基準(年額)として算出します。但し、賃金センサスの平均賃金額を下回るときは、平均賃金によります。児童・学生の場合や専業主婦などについては,現実の収入はありませんが,通常賃金センサスの平均賃金を基礎収入として逸失利益が認められます。

「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」のうち労働能力喪失期間とは,後遺障害によって労働能力を喪失するであろう期間のことで、原則として「症状固定時から67歳まで」になります。ただ実務上は,比較的軽微な後遺症の場合(特にむち打ちの場合)には,労働能力喪失期間が短縮される傾向にあります。逸失利益を算定するにあたっては、中間利息控除のため、労働能力喪失期間に対応して定められている一定の係数(ライプニッツ係数)を乗じて計算します。逸失利益の支払いは、本来であれば,年または月単位など分割金として支払われるべきものですが、実際には,一括払いの損害賠償として支払われることになります。そのため,一括払いにより過剰な損害賠償がなされないように,当事者間の公平の見地から,中間利息控除という処理をする必要があり、その処理の手法として、ライプニッツ係数を乗じるという手法が用いられます。

死亡による逸失利益

死亡事故における逸失利益は,以下の計算式によって算定されることになります。

死亡逸失利益 = 1年当たりの基礎収入 × (1-生活費控除率)× 稼働可能期間に対応するライプニッツ係数

具体例 《35歳の給与所得者、一家の支柱で3人を扶養していたケース》

基礎収入

事故前年収520万円

生活費控除率

30%

35歳から67歳までの32年間に対応するライプニッツ係数

15.8027

【計算式】

520万円×(1-0.3)×15.8027=5752万1828円

「生活費控除率」 死亡事故の場合,事故がなければ得られたであろう収入を失う反面,その被害者については生活費がかからないことになります。そのため,その生活費分は,逸失利益から損益相殺として控除されることになります。どのくらい生活費として控除すべきかについては、実務上,一定の生活費控除率の基準が定められており,原則としてその生活費控除率を用いて計算されます。

《被害者が一家の支柱であった場合の控除率》

・被扶養者が1名の場合    40%

・被扶養者が2名以上の場合 30%

《被害者が一家の支柱以外の者であった場合の控除率》

・女子の場合   30%

・男子の場合   50%

「稼働可能期間」の終期は,原則として67歳。したがって,30歳で交通事故により死亡したとすれば,67-30=37年が稼働可能期間ということになります。ただし,高齢者の場合には,「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」のいずれか長いほうの期間を稼働可能期間とするとされています。稼働可能期間の始期は,原則としてその死亡時ということになります。ただし,未就労の被害者が幼児・児童・生徒・学生の場合には,「18歳」(大学生の場合は「22歳」)が稼働可能期間の始期とされます。

労働能力喪失期間
(年)
ライプニッツ
係数
労働能力喪失期間
(年)
ライプニッツ
係数
1 0.9523 35 16.3741
2 1.8594 36 16.5468
3 2.7232 37 16.7112
4 3.5459 38 16.8678
5 4.3294 39 17.0170
6 5.0756 40 17.1590
7 5.7863 41 17.2943
8 6.4632 42 17.4232
9 7.1078 43 17.5459
10 7.7217 44 17.6627
11 8.3064 45 17.7740
12 8.8632 46 17.8800
13 9.3935 47 17.9810
14 9.8986 48 18.0771
15 10.3796 49 18.1687
16 10.8377 50 18.2559
17 11.2740 51 18.3389
18 11.6895 52 18.4180
19 12.0853 53 18.4934
20 12.4622 54 18.5651
21 12.8211 55 18.6334
22 13.1630 56 18.6985
23 13.4885 57 18.7605
24 13.7986 58 18.8195
25 14.0939 59 18.8757
26 14.3751 60 18.9292
27 14.6430 61 18.9802
28 14.8981 62 19.0288
29 15.1410 63 19.0750
30 15.3724 64 19.1191
31 15.5928 65 19.1610
32 15.8026 66 19.2010
33 16.0025 67 19.2390
34 16.1929

死亡に基づく慰謝料

交通事故によって、被害者が死亡した場合、被害者の相続人は被害者の慰謝料請求権を相続して請求できます。裁判における慰謝料の金額の基準は,日弁連交通事故相談センター東京京支部編の「損害賠償額算定基準(「赤い本」)」に記載されている基準が用いられるのが一般的です。

死亡慰謝料の基準額は、以下のとおりです。

  被害者が一家の支柱である場合    2800万円

  被害者が母親または配偶者の場合   2400万円

  その他の場合には2000万円~2200万円

入通院慰謝料

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交通事故によって傷害を負った場合,その精神的損害の賠償として,入院慰謝料と通院慰謝料(傷害慰謝料とも言う)を請求できます。
入院日数と通院日数に応じて、金額が定められていますが、自賠責保険における慰謝料基準と裁判基準では異なっています。
裁判における慰謝料の金額の基準は,日弁連交通事故相談センター東京京支部編の「損害賠償額算定基準(「赤い本」)」に記載されている基準が用いられるのが一般的です。
通常は、1表を使い、傷害がむち打ち症で他覚症状がない場合には、2表を使います。

【具体例】 右足骨折で1ヶ月入院し、退院後5ヶ月通院した場合、別表Ⅰの横軸の入院1ヶ月と縦軸の通院5ヶ月とが交差した141万円が慰謝料金額となります。

後遺障害に基づく慰謝料

交通事故によって後遺障害を負った場合,その精神的損害の賠償として,慰謝料を請求できます。

後遺障害の慰謝料は,後遺障害の等級に応じて定められていますが、自賠責保険における慰謝料基準と裁判基準では異なっています。裁判における慰謝料の金額の基準は,日弁連交通事故相談センター東京京支部編の「損害賠償額算定基準(「赤い本」)」に記載されている基準が用いられるのが一般的です。

以下は、自賠責基準と裁判基準の比較です。

等級 自賠責保険基準 裁判基準
第1級 1100万円 2800万円
第2級 958万円 2400万円
第3級 829万円 2000万円
第4級 712万円 1700万円
第5級 599万円 1440万円
第6級 498万円 1220万円
第7級 409万円 1030万円
第8級 324万円 830万円
第9級 245万円 670万円
第10級 187万円 530万円
第11級 135万円 400万円
第12級 93万円 280万円
第13級 57万円 180万円
第14級 32万円 110万円