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基礎収入とは?交通事故の損害賠償額計算で使用する収入の考え方

基礎収入

交通事故で後遺障害が残ってしまった場合、交通事故の加害者に対し損害賠償を請求することができます。

 

損害賠償請求のうち、逸失利益の項目では、事故がなければ得られたであろう収入を請求することが可能です。しかし、この逸失利益について、実際にどの程度の損害賠償請求ができるのか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。

 

そこで今回は、逸失利益の計算に必要不可欠な「基礎収入」について、詳しく解説します。

 

 

1.基礎収入とは

まずは、基礎収入の基本について解説します。

 

1−1.基礎収入とは、逸失利益算定の基礎となる収入のこと

 

基礎収入とは、逸失利益算定の基礎となる収入のことです。

 

後遺障害損害賠償請求をする場合、逸失利益を請求することができます。

 

逸失利益とは、主に事故がなければ得られたであろう収入のことを指します。事故によって働けない場合、事故以前よりも収入が減ってしまった場合には、生活していくことが困難となるため、被害者保護のために損害賠償請求をすることが認められているのです。

 

後遺障害の逸失利益を計算するためには以下の計算式を用います。

 

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数=逸失利益

 

この計算式を見てわかる通り、逸失利益を算定する場合、基礎収入が基本となります。

 

基礎収入が低ければ、算定の基礎が低くなってしまうため、基礎収入をどのように捉えるかは大変重要なことです。

 

基礎収入という言葉は、離婚する際に必要になる養育費を算出する場合にも登場します。こちらは、養育費を算出する場合に必要な考えであり、交通事故の損害賠償請求とは異なるものですので、混同しないようにしてください。

 

このように、基礎収入とは、逸失利益を算定するために必要となります。基礎収入がいくらになるのかによって逸失利益の額も大きく変動するため、非常に重要な概念です。

 

1−2.基礎収入の計算方法

 

では、基礎収入はどのようにして計算するのでしょうか。

基礎収入は、原則として交通事故前の被害者の現実収入を基準とします。具体的にいうと、交通事故前の直近の年収額が基礎収入として考えられています。

 

一番わかりやすいのはサラリーマンの方です。固定給に大きな変動がなく計算しやすいからです。源泉徴収票をみれば、いくら稼いだのか一目瞭然のため、基礎収入をすぐに知ることができます。

 

もっとも、働き方は多様であり、個人事業主の方、事業所得者の方、主婦の方などさまざまな方がおられると思います。

 

この場合であっても、逸失利益を請求することは可能ですので、詳しくは後述する「3.働き方別基礎収入の計算方法」をご覧ください。

 

このように、基礎収入は事故前の直近の年収を基本として算定します。職業別の具体的な計算方法は後述いたします。

 

2.基礎収入に関する疑問

次に、以下のような基礎収入の考え方においてよくある疑問を解説します。

 

①年収と給与所得はどう違うのか
②収入より実収入が多い場合や無収入の場合には、逸失利益の計算はどうなるのか

 

2−1.そもそも年収と給与所得の違いは?

 

よくある質問として、「年収と給与所得の違い」があります。

 

どちらも一緒じゃないの?という意見がありそうですが、現実には異なります。基礎収入は、どちらを指すのかという意味でも重要ですのでここで解説します。

まず、年収とは、税法上の収入の1年分のことです。毎月もらえる給与と賞与(ボーナス)の合計額のことを指します。もっと具体的にいうと、源泉徴収前の金額となります。

 

給与所得とは、1年間の収入金額から給与所得控除を差し引いたものを指します。個人事業主であれば、1年間の収入金額から必要経費を差し引いたものです。

 

では、基礎収入ではどちらを基準として算定すれば良いのでしょうか。

答えは、年収です。具体的には、源泉徴収票記載の交通事故前直近の年度の年収額を基準とします。

 

裁判でも、この点について争われたことがありますが、判決では「手取り収入ではなく、税額控除前の収入」を指すという判断がなされています。

このように、基礎収入を算定する場合は、税金控除前の年収を基礎として計算することが必要です。

 

2−2.実収入が多い場合、実収入で計算できる?

 

では、額面上の収入よりも実収入が多い場合は、実収入で算定できるのでしょうか。

 

結論からいうと、実収入の方が多い場合は、現実の収入額を基礎として算定することは可能です。ただし、これを行うためには、実際に実収入の方が多かったことを証明しなければいけません。

 

また、このようなケース以外でも将来の収入上昇を見込めるケースがあるでしょう。

開業医などでは、初年度で収入が少なかったが、来年度は大きな収入が見込める予定だったという場合、実際に収入額以上の収入を基礎収入とすることができます。具体的には、現実の収入を基礎として、将来的に収入額以上の収入が得られることを証明する必要があります。

 

さらに、開業医など特別な職種でなくとも、30歳未満の方であれば賃金センサスを用いることで、実際の収入より多い基礎収入を算定基準とすることができます。30歳以上のケースでも、将来の収入増が見込める確実な証拠があれば、基礎収入をアップさせることができます。

例えば、近い将来昇給が確定していたケースなどでは、昇給後の給料で算定することができるでしょう。

 

もっとも、30歳以上の場合は、確実な証拠が要求されるケースが多いため、基礎収入額をあげたい方は、弁護士に相談してみてください。

このように、実収入が多い場合は証明することができれば、基礎収入として算定することが可能です。

 

これら以外にも、自賠責の基準によって計算することで逸失利益を計算すると高くなることがあります。

 

2−3.収入がない場合は、逸失利益がもらえないか

 

では、収入がない場合には、逸失利益がもらえなくなってしまうのでしょうか。

 

基礎収入の基本的な考え方からすると、事故前の前年度に収入がなかった場合には、逸失利益の算定が困難となります。この場合、「逸失利益が請求できないのでは?」という疑問が出てくると思います。

 

しかし、事故前の年に無収入であった場合も、逸失利益は認められます

 

収入がなかったというのはさまざまな事情が考えられます。主婦(主夫)、前職を辞めて求職中だった、病気で働けなかった、介護や子育てで一時的に休業していた、などが想定できますが、これら以外にも事情はあるでしょう。

 

このような場合に、逸失利益を認めなければ、逸失利益を請求できる方と不公平が生じる可能性があります。そのため、実際には、交通事故時点で収入がなかったとしても、一定額の基礎収入を認めようというのが、基本的な考えです。

 

そのため、事故時点で収入がなかった、事故前の前年度の収入がなかったという場合でも、逸失利益は請求できますので、安心して下さい。

 

このように、収入がない場合でも逸失利益を請求することは可能です。ただし、具体的な金額については無収入の理由によっても変わる可能性がありますので、後述する「3.働き方別基礎収入の計算方法」をご覧ください。

 

3.働き方別基礎収入の計算方法

次に、働き方別の基礎収入の計算方法を解説します。主婦、失業者、年金受給者などの現在働いていない方についてもここでご説明します。

 

3−1.サラリーマン等の給与所所得者

 

まずは、サラリーマン等の固定給が入る給与所得者についてご説明します。

給与所得者にあたる方の職業としては、会社員(サラリーマン)として雇用されている人、公務員などがあります。

 

給与所得者の方は、一番基礎収入の算定が簡単です。事故前直近の源泉徴収票をみれば、基礎収入が明らかになります。具体的には、源泉徴収票の支給額欄をみれば良いでしょう。

 

基礎収入をアップさせたい場合、賃金センサスが参考になるかもしれません。賃金センサスの記載されている収入より、実際の収入が低い場合は、増収の蓋然性が証明できれば賃金センサスに記載されている収入を基礎収入とできる可能性があります。

 

これをご希望の場合は、弁護士に相談してみてください。その他に基礎収入をアップさせる事情がある場合も同様です。

 

また、基礎収入の概念は、基本的に休業損害における基礎収入と同じです。そのため、源泉徴収票の支給額欄にある額面から、1日あたりの基礎収入を算定することも可能です。

 

3−2.個人事業主などの事業所得者

 

次に、個人事業主などの事業所得者の基礎収入ついてご説明します。

事業所得者とは、個人事業主のことを指します。個人事業を営んでいる方、フリーランス、医師、弁護士、俳優、商工業者、競馬の騎手などが、例となります。

 

事業所得者の場合、基礎収入は所得額を基準に算定します。具体的には、確定申告における所得のことです。サラリーマンの場合は、税金控除前の年収が基準になるといいましたが、ここは事業所得者でも同じです。

 

しかし、経費控除後の純収入額が基礎収入となる点には注意が必要です。

経費に対する考え方ですが、基本的には、従業員の給料や賃料などの固定経費も含めて差し引かなければいけません。

 

しかし、固定経費について、近年扱いが変わってきており、別途積極損害として請求できる可能性があります。慰謝料額全体を上げるためには、固定経費を積極損害として損害賠償請求することについて検討してみましょう。

 

また、実収入と申告額に差があり、実収入の方が多い場合には、それを証明することで基礎収入の算定基準とすることが可能となります。これができるかどうかは微妙な判断が必要になりますので、詳しくは弁護士に相談してください。

 

3−3.取締役などの会社役員

 

次に、取締役などの会社役員の基礎収入についてご説明します。

会社役員は給与職者と同様に、会社から給料を受け取ることになります。そのため、源泉徴収票をみれば基礎収入額が明らかになると考えられますが、一般のサラリーマンとは異なる点がありますので注意が必要です。

 

具体的には、役員報酬の扱いが問題となります。

 

役員報酬については、基本的に基礎収入の算定には組み込むことができません。例外として、従業員としての労働の対価が含まれている場合は、基礎収入に組み込むことは可能です。

 

労働の対価か役員報酬なのかの線引きですが、このラインは曖昧です。保険会社や加害者と争いになりやすい部分ですので、「労働の対価である」と主張したい場合には、弁護士に相談してください。

 

事業所得者である個人事業主にもいえることですが、会社役員は給与所得者と比べて基礎収入の算定が難しい業種といえます。

 

基本的には、役員報酬を抜いた収入額が基礎収入と考えられていますが、これら以外の算定方法もありますので、基礎収入額増加を希望する場合は、弁護士にご相談ください。

 

3−4.主婦・主夫などの家事従事者

 

次に、主婦などの家事従事者の基礎収入についてご説明します。

 

家事従事者とは、主に家事労働を行う者のことであり、専業主婦(主夫)を指します。家族のために家事労働を行うことが必要であり、自分のために家事全般を行っているというのは含まれません。

 

家事従事者の場合は、家庭内労働のため収入は発生しません。そのため、実際上は無職として扱われることになります。

 

この場合は、給与所得者や事業所得者のように、参考となる収入がありませんので、基礎収入は賃金センサスを用いて算出します。

 

賃金センサスとは、厚生労働省による賃金構造基本統計調査の結果をまとめたものを指します。賃金センサスは、産業別、企業規模別、性別、年齢等による平均賃金を算出したものであり、主婦などの収入を算定できない方の逸失利益の算出に役立ちます。

 

このように、家事従事者であっても、賃金センサスを元に基礎収入を算出することができます。表をみればわかるため、実際に確認してみると良いでしょう。

 

参考:国土交通省全年齢平均給与額

 

3−5.幼児や学生、アルバイトの場合

 

次に、幼児や学生などの基礎収入についてご説明します。

 

幼児や学生の場合、収入がないことが一般的です。この場合は、家事従事者と同様の扱いとなり、賃金センサスを利用することになります。賃金センサスから基礎収入算定することができます。

 

学生でアルバイトをしていたという場合は、アルバイトの収入について休業損害として認められる可能性があります。

 

後遺障害による逸失利益とは異なりますが、積極損害として請求できる可能性がありますので、弁護士に相談してみてください。

 

また、フリーターなどのアルバイトを専業をとしているケースもあるでしょう。この場合は、基本的に給与所得者と同じ扱いです。源泉徴収前の収入が基礎収入となります。

 

アルバイトによる収入が、賃金センサスの基準よりも低い場合、30歳未満の場合は、他の場合と同様に基礎収入をアップできる可能性があります。詳しくは、弁護士にご相談ください。

 

3−6.求職中などの失業者

 

次に、求職中である場合などの失業者の基礎収入についてご説明します。

失業中に交通事故に遭ってしまった場合、基礎収入の算定がどうなるのか疑問に思う方も多いでしょう。

 

失業者の場合、一定の条件を満たせば、失業前の年収を参考に基礎収入を計算することが可能です。具体的には、労働能力と労働意欲、就労することに対する蓋然性が認められる場合には、失業前の年収を基礎収入とすることができます。

 

そのため、失業後に労働意欲がなかったというケースでは、基礎収入がゼロになってしまいますので逸失利益を請求することは難しくなります。

 

もっとも、ほとんどの方が生活していくために何らかの仕事をすることが考えられますので、失業者であってもほとんどのケースでは、基礎収入を想定することができるといえるでしょう。

 

そして、失業前の賃金が賃金センサスの基準よりも低い場合は、将来的に平均賃金程度の収入が得られる蓋然性があると証明できれば賃金センサスの基準を基礎収入として用いることもできます。

 

3−7.株トレーダーなどの不労所得者

 

次に、株トレーダーなどの不労所得者の基礎収入についてご説明します。

不労所得者とは、労働を伴わずに収入を得る人を指します。具体的には、株トレーダーや投資信託、FX、競馬、その他ギャンブルなどで生計を立てている方となります。

 

不労所得者の方の場合は、原則として逸失利益を請求することができません。そのため、基礎収入の考え方は妥当しないことになります。

 

逸失利益は、あくまで労働の対価としての収入が、後遺障害で得られなくなった場合に損害賠償を認めようとするものです。不労所得は、労働をせずに収入を得ることが可能となるため、逸失利益そのものが観念できません

 

そのため、不労所得で得た事故直近の収入についても、基礎収入とすることはできないのです。

 

例えば、株取引などの場合、本人が事故の後遺症を受けたことに関係なく、収入が発生することがあるでしょう。

この場合、仮に事故後に収入源があったとしても事故との因果関係はありません。そのため、不労所得者は、逸失利益を請求することができないのです。

 

もっとも、証券会社で働いている方などは、株取引であっても別扱いです。この場合は、給与所得者あるいは事業所得者として考えられますので、それぞれの見出しをご確認ください。

 

3−8.各種年金受給者

 

最後に、各種年金受給者の基礎収入についてご説明します。年金受給者の場合、基礎収入の算定はどうなるのでしょうか。

 

年金受給者の場合、交通事故後に後遺障害が残ったとしても年金は以前のまま受給することが可能です。そのため、後遺障害の逸失利益として損害賠償請求することはできません。「事故がなければ得られた利益」ということはできないからです。

 

したがって、年金は基礎収入の算定の基礎にはなりえません

 

もっとも、後遺障害発生後に、被害者が死亡してしまった場合は、死亡慰謝料として逸失利益を請求することができます。

 

この場合は、年金は労働能力等とは関係ないものであるため、逸失利益の基礎収入にならないという考えもありますが、実際の裁判例では、国民年金、障害年金、退職年金について、死亡の逸失利益の基礎収入とすることを認めています。

 

将来受給できたであろう年金を逸失利益として捉えているのです。また、年金受給前であっても、受給資格を得た場合には逸失利益として請求できる可能性があります。

 

ただし、遺族年金は別です。遺族年金や年金恩給の扶助料は、最高裁にて基礎収入にならないとの判断が下されています。

 

以上から、各種年金については、死亡の逸失利益として認められる可能性があります。基礎収入として認められるのかは、年金の種類によって変わりますので注意してください。

 

各種年金に関する基礎収入の問題については、弁護士に確認するようにしてください。

 

○基礎収入についてわからないことはエクレシア法律事務所へ

逸失利益の計算方法は、計算式が明らかであるため、実際にどれくらいの逸失利益が請求できるのかを自分で試算しやすいかもしれません。しかし、算定の基礎となる基礎収入がわからない場合は、算定できません。

 

基礎収入の算定は、給与所得者であれば簡単に割り出せるかもしれませんが、その他の職業である場合は、難しい判断が必要になることもあります。

 

また、基礎収入をアップさせたいという場合は、増収の見込みなどの証拠が必要になるため、実際に請求できるかどうかについては法律家の判断が必要不可欠です。基礎収入についてわからないこと・疑問などがあれば、弁護士にご相談ください。

 

エクレシア法律事務所は、埼玉県越谷市にある、交通事故の解決実績豊富な弁護士事務所です。越谷市の他にも、埼玉県東部地方(春日部市、川口市、吉川市、草加市、八潮市、三郷市周辺)、東京都足立区、千葉県柏市、流山市、松戸市周辺など、近隣の方からも多くご相談を頂いております。

 

交通事故の被害者となってしまうと、怪我の治療だけでなく、保険会社とのやりとりも大きなストレスになってしまいます。過失割合や損害賠償金額など、交通事故案件でお悩みがある方は、エクレシア法律事務所の弁護士にお任せください。納得のいく結果で解決できるようサポートさせて頂きます。

 

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