1. HOME
  2. 弁護士ブログ
  3. 逸失利益
  4. 後遺障害を負った時の逸失利益の考え方と相場・計算方法(まとめ)

後遺障害を負った時の逸失利益の考え方と相場・計算方法(まとめ)

後遺障害を負った時の逸失利益の考え方と相場・計算方法(まとめ)

後遺障害等級認定を受けると、慰謝料が増額されるということはすでにご存知の方も多いでしょう。

しかし、慰謝料以外にも、後遺障害等級認定を受けることで、損害賠償請求をすることができる項目があります。

 

それは、逸失利益です。逸失利益については、複雑な計算が必要になるため、どのくらいの損害賠償額がもらえるのかわからないという方も多いでしょう。

 

そこで、今回は、後遺障害等級認定における逸失利益の計算方法をご説明します。

 

 

1.後遺障害等級認定。逸失利益はどう計算するか

まずは、逸失利益を計算するための基礎知識と、基本の計算式について解説します。

 

1−1.後遺障害等級認定と逸失利益の計算式

 

「逸失利益の意味がわからない」という方もいらっしゃると思いますので、まずは逸失利益について簡単にご説明した後に、計算式について説明します。

 

逸失利益とは、事故がなければえられたであろう利益のことを指します。後遺障害等級認定における逸失利益では、このうち交通事故の後遺障害がなければ、一生を通じて得られた収入のことを意味します。

 

交通事故で後遺障害が残ってしまった場合には、「これまでのように働けない」などの損失が生じます。この損失についても、損害賠償にてカバーしましょうというものです。

 

後遺障害等級認定における逸失利益の計算式は以下のとおりです。

 

基礎収入×後遺症による労働能力損失率×ライプニッツ係数=後遺障害等級認定における逸失利益

 

計算式自体はシンプルですが、基礎収入、後遺症による労働能力損失率、ライプニッツ係数という言葉の意味が不明瞭でしょう。

これらについては、国土交通省が公表している表や計算式を用いて算出しますが、詳しくは後で解説いたします。

 

このように、後遺障害等級認定における逸失利益の計算では、あらかじめ決められた計算式に基づいて計算します。計算式があることで、客観的にどのくらいの額が支払われるのかが明らかになるのです。

 

1−2.基礎収入とは

 

①基礎収入の基本

 

では、逸失利益の計算式に用いられる基礎収入とはどのようなことを意味するのでしょうか。

 

基礎収入とは、後遺障害がなければ得られたであろう収入のことを指します。基礎収入の計算は、賃金センサスと呼ばれる厚生労働省の公表している表に基づき算出することができます。

賃金センサスは、毎年更新されるものであり、厚生労働省が賃金構造基本統計調査というものを行うことで、各年齢の平均収入を算出しています。

 

賃金構造基本統計調査では、就業者の年齢だけでなく、労働者の就業形態や勤続年数、雇用形態などを考慮した上の数値結果を用いているため、国民の平均的な年齢に基づく収入がわかります。

賃金センサスは、個人の前年の収入が想定できない場合に使用することになります。



具体的な数字については、国土交通省の全年齢平均給与額をご覧ください。

 

一般的なサラリーマンの場合(給与所得者)は、ボーナスを含めた前年度の平均月収をもとに基礎収入を算出します。個人事業主などの自営業者の場合は、交通事故に遭う前年度の確定申告の額面を元に計算します。

 

申告額と実収入が異なる場合、実収入が多かったことを証明できれば、実収入を基礎収入とすることも可能です。

 

②賃金収入がない場合

 

では、現在収入がない専業主婦や学生などは、収入なしとして判断されるのでしょうか。

 

まず、現在収入がない専業主婦であっても、この賃金センサスを用いて収入が計算されます。 具体的には、表内で女子と書かれている賃金センサスに基づき算出されます。家事従事者であっても、女性労働者の平均賃金が用いられるということです。

 

男性が主夫をしている場合でも同様に、女性の賃金センサスを用いて計算されることが多いでしょう。

 

学生や幼児などの場合はどうでしょうか。

まだ学生である場合、未就学児が交通事故に遭い後遺障害が残ってしまった場合にも、同様に賃金センサスを用います。しかし、最近では男女別のものではなく、男女区別のない平均賃金を基礎収入として算出することもあります。

基本的には、18歳の賃金センサスをもとに算出すれば良いでしょう。

 

このように、基礎収入は賃金センサスを用いて算出します。いくつかの例外はありますが、基本的には表における年齢・男女別の欄をみれば、基礎収入がわかるようになっています。気になる方はチェックしてみてください。

 

※国土交通省:全年齢平均給与額

 

1−3.ライプニッツ係数とは

 

次に、ライプニッツ係数についてご説明します。

ライプニッツ係数とは、症状固定時における逸失利益を実際の金額に計算するための係数のことです。

 

逸失利益を損害賠償請求した場合、これを受け取る場合は原則として一生分の収入を一括で受け取ることになります。しかし、交通事故による後遺症がなければ一括ではなく、月ごとに収入として受け取っていたものです。

 

そのため、中間利息を控除することが当事者間において公平となります。

これを計算するための式がライプニッツ係数と呼ばれるものです。

 

計算式は複雑なので省略しますが、国土交通省が就労可能年数とライプニッツ計算表を公表しているので、これを元に算出することができます。

 

ライプニッツ係数は、法定利率である年5%を元に計算されていましたが、現在では法改正により年3%となります。

 

このように、逸失利益の計算をするためには、中間利息を差し引いた計算が必要となります。これにはライプニッツ係数が用いられることを理解しておけば大丈夫です。

 

国土交通省:就労可能年数とライプニッツ計算表

 

1−4.労働能力喪失率とは

 

最後に、労働能力喪失率についてご説明します。

 

労働能力喪失率とは、 交通事故により後遺障害が発生したケースで、労働能力の喪失が見られる場合にこれを数値化したものとなります。こちらも後遺障害別等級に記載されている表をもとに算出します。

具体的には、国土交通省の労働能力喪失率表をご覧ください。

 

表をみてみると、後遺障害等級として一番重い1級では喪失率100%となっています。他方、一番軽いとされる14級では、5%となっているのがわかります。

 

労働能力については、喪失率以外にも、労働能力喪失期間というものも算定に関係してきます。

労働能力喪失期間とは、その名の通り、事故による後遺障害により労働能力を喪失した期間です。25歳で事故に遭った場合、25歳から67歳までの期間である42年間が労働能力喪失期間となります。

 

67歳というのは、人が労働できる年齢が67歳くらいまでであると想定されているためです。後述しますが、これには例外もあります。

基本的には、67歳から事故に遭った年の年齢を引くことで算出すると覚えておいてください。

 

このように、逸失利益についてはさまざまな表を用いて算出します。例外もありますが、表内にある自分の年齢、性別などから計算式に必要な数字を見つけることができます。

気になる方は、一度ご自分で計算式を当てはめてみてください。

 

2.後遺障害等級認定。逸失利益のモデルケース

次に、後遺障害等級認定における逸失利益のモデルケースをご説明します。属性別の逸失利益の額を見てみることで、よりイメージしやすくなるでしょう。

 

2−1.モデルケース1 35歳 会社員 男性

 

まずは、給与所得者である会社員の男性の事例を見てみましょう。

 

35歳の男性でサラリーマンの方です。交通事故の被害者となってしまい、後遺障害等級10級の認定を受けることになりました。事故前の年収は500万円でした。この場合、後遺障害における逸失利益はどのくらいになるのでしょうか。

このケースでは、基礎収入は500万円、後遺症による労働能力喪失率は27%(0.27)、労働可能期間は32年となりますので、ライプニッツ係数は15.803となります。

 

計算式は「500万円×0.27×15.803」となり、逸失利益額は、「2133万4050円」です。

このように、表を用いれば、比較的簡単に逸失利益額が明らかになります

 

2−2.モデルケース2 40歳 主婦 女性

 

次に、40歳の女性で主婦の方のケースを見てみましょう。こちらも交通事故の被害者となってしまい、後遺障害等級認定を受けることになりました。等級認定の結果、8級の等級を受けることになりました。専業主婦ですので、事故前の年収はゼロです。

 

このケースでは、基礎収入は賃金センサス表によると約367万円(月額305500円×12)、後遺症による労働能力喪失率は45%(0.45)、労働可能期間は27年となりますので、ライプニッツ係数は14.643となります。

 

計算式は「367万円×0.45×14.643」となり、逸失利益額は、「2418万2915円」です。

主婦の場合は、前年の年収がないため、賃金センサスで年収を割り出すのがポイントです。

 

2−3.モデルケース3 17歳 高校生 男性

 

次は、17歳の男性で学生のケースを計算してみましょう。後遺障害等級認定は、3級。収入は学生のため、ゼロとなります。

 

18歳未満の場合、計算方法が少し複雑になります。具体的には、「67歳までの年数に対応する係数−18歳までの年数に対応する係数」が、ライプニッツ係数となります。今回の場合は、「18.256(就労可能年数50年に対応する係数)−0.952(18歳までの年数1年に対応する係数)=17.304」となります。

 

このケースでは、基礎収入は賃金センサス表の18歳で計算します。約225万円(月額305500円×12)、後遺症による労働能力喪失率は100%(1)、労働可能期間は27年となりますので、ライプニッツ係数は17.304となります。

 

計算式は「225万円×1×17.304」となり、逸失利益額は、「3893万4000円」です。

少し計算がややこしくなりますが、表で17歳の年齢の欄を見れば、ライプニッツ係数の計算をしなくとも、すぐにライプニッツ係数がわかりますので参考にしてみてください。

 

2−4.モデルケース4 67歳 女性 無職

 

次は、67歳女性のケースについてみていきましょう。後遺障害等級認定は6級、67歳ですので年金受給者として考えます。

 

67歳上の高齢者の場合、将来働くことが想定されていませんので、労働可能年数は算出できません。しかし、これでは不公平が生じるため、平均余命年数の半分の係数を適用することになります。

このケースでは、基礎収入は68歳以上の賃金センサスによると約284万円(236600×12)です。後遺症による労働能力喪失率は67%(0.67)、労働可能期間は9年((85-67)÷2)となりますので、ライプニッツ係数は7.108となります。

 

計算式は「284万円×0.67×7.108」となり、逸失利益額は、「1352万5102円」です。

高齢者の場合も同様に、労働可能年数とライプニッツ計算表を用いれば、年齢を見るだけで簡単に労働可能期間が算出できますので、参考にしてみてください。

 

以上が、モデルケースとなります。モデルケースのみでも、逸失利益額の目安がわかると思います。

詳しい逸失利益額が知りたい場合は、ご自分で計算式をあてはめてみてください。

 

3.後遺障害の逸失利益を計算する際の注意点

次に、逸失利益を計算するさいの注意点をご説明いたします。

 

3−1.労働可能期間は、症状固定日を始期とすること

 

労働可能期間の算定については、注意すべきポイントがあります。それは、算定期間の始期についてです。

 

算定開始時期については、事故にあった当初の年齢と考えたくなりますが、これは間違いです。開始時期については、症状固定日の年齢から算定してください。

 

なぜ症状固定日になるのかというと、症状固定日までの収入の減少については、休業損害という項目で損害賠償を請求できるからです。そのため、労働可能期間については、症状の固定日の年齢を基準に算定しましょう。先にご説明した通り、終期は一律で67歳となります。

また、先にお話した通り、労働可能期間の算定については、例外事項についても理解しておくべきです。

 

具体的には、すでにお話した通り、未就労者は18歳を基準に算定すること、68歳以上の高齢者は平均寿命の1/2を労働能力喪失期間とすることなどです。

 

これ以外にも

 

①症状固定時期に大学進学の可能性が高いケースでは就労始期を大学卒業時にする

②68歳以下の高齢者でも、不公平な試算となる場合には、年齢に基づく労働喪失期間と平均寿命の1/2を労働能力喪失期間の計算方式のいずれか長い方を労働喪失期間とする

 

などの例外があります。

 

3−2.むち打ち症の場合は、労働能力喪失期間が制限される

 

後遺障害がむち打ち症の場合には、労働能力喪失期間が制限されるケースもあります。

 

具体的には、14級9号や12級13号の場合に、むち打ち症の神経症状はいずれ回復すると考えられています。そのため、労働能力喪失期間は、14級9号で5年程度、12級13号で10年程度として計算される場合が多くなっています。

 

むち打ち症については、絶対にこの年数が労働能力喪失期間になると言えない症状の1つです。裁判例によっては、これより長い年数が認定されたこともありますが、任意保険会社による算定では、これより短くなってしまうこともあります。

むち打ち症については、算定が難しくなってしまうため、きちんとした逸失利益額が知りたい場合は、専門家である弁護士に相談してみましょう。

 

3−3.労働能力喪失率の計算は併合に注意

 

また、労働能力喪失率の算定にも注意が必要です。特に、2つ以上の後遺障害があると認められる場合は、等級が変わることがあるため注意してください。

 

後遺障害等級認定は、実際に認定を受けることができるまで、どの等級になるかわかりません。希望する等級が認められることもあれば、軽く認定されてしまうこともあります。

そのため、「まだ申請前だ」というケースでは、確定的な逸失利益の算定は難しいでしょう。

 

また、2つ以上の後遺障害がある場合、認定上は併合として扱われます。併合とは、2つ以上の後遺障害が認定される場合に、1つの等級として扱い、等級の繰上げを行うことを指します。2つ以上の障害がある場合には、この繰上げにより等級が上昇することが考えられます。

 

もっとも、むち打ち症など労働能力喪失率に争いが生じやすい症状が障害の1つである場合には、2つ障害があっても繰上げ前の等級や軽い方の等級になってしまうこともあります。

併合が生じる場合には、後遺障害等級認定においてどの等級となりそうかについて難しい判断が必要となりますので、弁護士に相談してみてください。

 

このように、後遺障害における逸失利益の計算方法についてはいくつか注意すべきポイントがあります。とくに、むち打ち症や併合がある場合は、難しい判断が必要となります。

個別ケースによって算定額も大きく変わることがあるため、早合点せず必ず弁護士に相談してください。

 

 

○後遺障害等級認定の逸失利益の計算もエクレシア法律事務所へ

後遺障害等級認定を受けることができれば、後遺障害の逸失利益も損害賠償として請求することが可能です。計算方式については、客観的に定まっていることは上記説明でおわかりいただけたと思います。

しかし、実際の事例でどのくらいの逸失利益が見込めるのかは、個別の事情を見てみないことには判断できません。

 

「これから後遺障害認定を受けたい」、「損害賠償額を増額したい」、「任意保険会社の逸失利益の見積もりが思っていたより少ない」、など逸失利益に関する疑問・お悩みがある場合は、埼玉県越谷市にあるエクレシア法律事務所の弁護士にご相談ください。専門家である弁護士が、逸失利益に関するお悩みを解決いたします。

 

エクレシア法律事務所は、埼玉県東部地方(越谷市、春日部市、川口市、吉川市、草加市、八潮市、三郷市周辺)や、東京都足立区、千葉県柏市、流山市、松戸市周辺などの近隣の方からも、多く交通事故のご相談を承っております。逸失利益の計算だけでなく、交通事故の被害者となってしまい、過失割合や損害賠償金額などでお悩みがある方は、どうぞお早めにご相談ください。

 

お電話もしくはメールフォームにてご予約頂けます。

 

エクレシア法律事務所のアクセス方法
越谷市内の方へ
(新越谷/南越谷駅周辺の地図など)
春日部・草加・川口など周辺エリアの方へ
(越谷市外からのアクセス)

●合わせて読みたい関連ページ: