交通事故の『後遺障害による逸失利益』~重要性と相場計算の注意点
目次
■賠償金で最も高額なのは慰謝料じゃなくて逸失利益!?
交通事故の損害賠償や示談交渉に関する話題を、さまざまなサイトで耳にしますが、どれも慰謝料だとか後遺障害認定が、示談金や賠償金の増額において重要だ、というような記載が多いように感じます。
が、しかし、実は交通事故の賠償金の中で最も高額となる項目は、他にあることを多くの方が気付かずにいます。
ズバリ、それは「逸失利益」です。
逸失利益は慰謝料、後遺障害慰謝料、休業損害、治療費、などその他の請求項目よりも非常に高額な金額が認定されることがあり、これを抜きにして交通事故の示談金、賠償金の増額はあり得ないのです。
そこで今回は、ほかのサイトではあまり強く触れられていない「逸失利益」について解説したいと思います。
○逸失利益とはそもそもどんな損害か
逸失利益とは、交通事故で怪我をして治療を続けてもこれ以上回復が見込めないと判断される症状固定時期になっても、一定の症状が残る場合で、かつ、後遺障害に認定された場合に「後遺障害がなければ得られたであろう利益」つまり収入を「交通事故によって生じた損害」として請求するものです。
ということは、逸失利益の金額は、被害者の年齢、性別、職業、収入、後遺障害の程度や内容などによって大きく変動します。
そこで今回は、逸失利益が高額になるケースについて紹介してみたいと思います。
○逸失利益が高額となるケース1:被害者が子供の場合
(東京本部平成25年12月19日裁定・本審第897号)
被害者が子供の場合は、大人に比べて将来に向かっての年数が長いため、逸失利益の算定期間が長くなり、結果として逸失利益の額が高額になります。
過去の事例で、12歳の当時小学生だった男の子が交通事故に遭い、「高次脳機能障害」と診断され第5級2号が認定された事案において、なんと5800万円もの高額な逸失利益が認められました。
この事案は賠償金の総額が7300万円だったため、実にそのうちのおよそ8割を逸失利益が占めた事になります。
逸失利益が高額化した主な理由は以下の通りです。
その1:被害者が子供だったから
幼くして後遺障害を負ってしまうと、その後の人生ずっとその障害を背負って生きていくことになります。そのため高齢者が被害者の場合よりも逸失利益は厳しく算定される傾向にあります。
その2:将来的に影響が大きい後遺障害だった
被害者が負った高次脳機能障害の具体的な症状としては、記憶障害、注意障害、能力低下などがあり、また病院において将来の運転免許の取得が困難との診断を受けていました。郊外に居住している人の場合、運転免許の取得が困難と診断されると、仮に就職先が決まっても通勤することができず、事実上就業することが難しくなるのです。
では、小学生の逸失利益は何を基準に逸失利益を算出するかというと、「症状固定した年の賃金センサス性別別の学歴計全年齢平均賃金」です。
これを本人が失った基礎的収入として計算をしていくことになります。
本件事案では、症状固定時の男子の賃金センサスが約550万円だったため、この金額を基礎に、本人が仮に就職していたら働いて稼いだであろう、労働能力喪失期間を49年間とし、さらに労働能力喪失率を79%と認定しライプニッツ係数によって計算して、およそ5800万円が逸失利益として認定されたというわけなのです(※後述しますが、実際には単純な計算ではなく、より複雑な計算となっています)。
つまりは、逸失利益が高額となるポイントは、ズバリ「労働能力喪失期間」と「労働能力喪失率」なのです。
本件事案は小学生というまだ未来ある子供が、高次脳機能障害という重い障害を負ったことにより、このような高額な金額が認定されたのです。
○逸失利益が高額となるケース2:後遺障害等級14級でも逸失利益が示談金全体の1/3を占めた事案
(福岡支部平成26年1月8日裁定・福審第1073号)
逸失利益は先ほどのような上位等級である高次脳機能障害のような重度の障害ではなくても認められます。
例えば、後遺障害認定でもっとも低い等級である14級に認定された事案においては、およそ100万円とその金額こそそこまで高額ではないものの、示談金全体が300万円だったことから、こちらもおよそ1/3を逸失利益が占める結果となったのです。
本件事案においては、被害者(32歳 社会人)の主な症状は頸椎捻挫(いわゆる「むちうち」)、腰椎捻挫、打撲など比較的軽傷な部類の後遺障害でした。
このような症状の場合は、労働に及ぼす影響が少ないと判断されるため労働能力喪失率は5%にとどまりましたが、基礎収入が約470万円あったところ5年間の労働能力喪失期間が認定され、ライプニッツ係数が4.3294であることから、結果としておよそ100万円の逸失利益が認められました。
このように等級が低い事案であっても、逸失利益の占める割合は示談金全体の1/3もあるのです。つまり、逸失利益がいくらになるかによって、示談金の総額はものすごく変動するということなのです。
ここで、参考までに、後遺障害逸失利益の計算式について、触れておきましょう。
後遺障害に基づく逸失利益にて、詳細は解説していますが、基本的には下記となります。
後遺障害逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
このようになります。
ですから、上記のケース2に当てはめると、
後遺障害逸失利益 = 470万円 × 5% × 4.3294 ≒ 100万円
となり、おおよその目安がつくわけです。
しかし、このような単純な計算で、後遺障害の逸失利益の計算がいつも出来るわけではありません。
○逸失利益の相場を知りたい人へ一言!
おそらくこの記事を読んで下さっている方の多くは、「逸失利益の相場」を知りたくて読んでいるのではないでしょうか。確かにほかのサイトなどには逸失利益の相場らしきことが書いてあることもありますが、これだけは覚えておいてください。
逸失利益は、「後遺障害認定何級だからいくら」なんて言う単純な問題ではないのです。
仮に一般的には軽いという認識の後遺障害だとしても、その人の仕事内容によっては致命傷となる恐れもあるのです。分かりやすく言えば、力仕事をしている人が足の一部を切断するのと、完全にデスクワークの人が切断するのとでは、事実上逸失利益は異なってくるのです。
そのため、自分自身がより適切な逸失利益を加害者側に支払ってもらいたいと考えるのであれば、逸失利益の相場を調べるのではなく、一刻も早く「交通事故に強い弁護士」に相談すべきです。
今回逸失利益について取り上げたのは、逸失利益の相場を知っていただきたかったのではなく、逸失利益が示談金の総額の中でどれだけ多くの割合を占めていて、どれだけ重要な要素なのかということを、交通事故の被害者の方に知っていただきたかったからなのです。
加害者側に適切な逸失利益を請求できるのは、交通事故に強い弁護士だけです。
もしも交通事故で後遺障害認定を受ける可能性がある方の場合は、できる限りお早めに弁護士までご相談ください。早期相談がカギとなります。
埼玉県越谷市にあるエクレシア法律事務所は、南越谷駅・新越谷駅から徒歩3分にある交通事故に強い弁護士が在籍している法律事務所です。交通事故の被害に遭われた方は、お電話やメールにてお問合せください。無料相談もございます。
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