近親者の固有の慰謝料請求権について
私たち老夫婦と同居をして生計を担っていた息子が、信号無視の自動車にはねられ、死亡してしまいました。息子の嫁とは既に離婚していますが、成人した孫がいます。両親としては、加害者に何も請求することはできないのでしょうか。
死亡事故の場合、近親者にも固有の慰謝料請求権が認められます。民法題11条では、「他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。」と定めています。交通事故による損害賠償請求権は,損害を受けた人,つまり,交通事故の被害者が取得するのが原則です。死亡事故の場合であれば,被害者の相続人の方が、その被害者本人に発生した損害賠償請求を相続することになりますしたがって,被害者の方(死亡事故の場合は相続人の方)以外の方は,損害賠償を請求できないというのが原則となります。本問のご両親には、損害賠償請求権は相続されません。しかし,家族・親族・遺族も,大切な家族を交通事故で失うような場合は、精神的苦痛が大きいことは当然です。そこで,上記民法711条は,交通事故の被害者の近親者にも,(被害者から相続したものではない)被害者という家族を失った精神的苦痛による損害賠償を請求することができることを定めています。これを,被害者の損害賠償請求に対して,「近親者固有の慰謝料請求権」と呼ぶことがあります。
本問の場合、まず、相続人である被害者のお子さんが損害賠償請求とともに慰謝料請求をすることになり、被害者の父母についても固有の慰謝料請求をすることができます。
死亡ケースの慰謝料の目安として、被害者が一家の支柱の場合は、2800万円、母親・配偶者の場合は2400万円、その他(独身の男女、子供、幼児等)の場合は2000万円から2200万円程度とされています。
但し、上記死亡慰謝料は総額であり、配分については遺族間の事情を斟酌されます。父母の慰謝料請求額として、各100~200万円程度認められたケースがあります。